梅林秀行さんと歩くシリーズ#1 京都・長岡京市における初詣のメッカ「長岡天満宮」

『ブラタモリ』などテレビ番組でもおなじみ京都高低差崖会崖長・梅林秀行さんに、長岡京市の魅力を案内してもらう3回シリーズの第1回目。

今回は長岡天満宮です。梅林さんの手にかかれば普段、見慣れている景色が全く違うものに! 来年の初詣はもう高低差や八条ヶ池を見ずには歩けませんよ。


長岡天満宮は小山に立っているのではなかった!?

- 梅林さんは長岡京には来られるんですか?

梅林 よく来ますよ。長岡天満宮へキリシマツツジを観に来たり。良いところですよね。

ほら、ここからご覧いただくとわかると思いますが、八条ヶ池と後ろの西山の間にテーブル状に地面が高まった森が見えますよね。あそこは元々、僕らが立っている地面と繋がっていて、断層によって隆起してできたのが、あの平らな森なんです。

―  長岡天満宮のある山と私たちが立っている所は同じ高さだったということですか?

梅林 そうです。あそこは地震などで隆起してできた台地なんです。

―  結構、高低差がありますよね。

梅林 西山に何本も通っている断層をまとめて京都西山断層帯というんですが、その一本によって地面が持ち上げられ、その上に長岡天満宮が鎮座しているんです。その地面は大阪層群といって太古、京都が海だった頃に海底に溜まった粘土層ですね。

―  え、ここ、海底だったんですか!

梅林 そして、さらに別の断層で持ち上げられ下段、中段、上段と段々状になっていくわけです。ですから、ここから見る風景だけで長岡京市の地形・地質の成り立ちが一望できるわけです。

我々は今からその下段、中段へ行ってみましょう!

ボートにカフェも。
八条ヶ池は日本で初めて作られた公園だった?!

梅林 八条ヶ池は江戸時代に造られた、ため池という説明が多いですね。

―  桂離宮を創った八条宮が寛永15(1638)年に造った灌漑用のため池といわれていますね。

梅林 実はこれが単なるため池でないと思っているんです。というのは池の真ん中に堤防上の道を築いて太鼓橋を掛けていることですね。あれはまさしく庭園としての記号表現なんですよ。

―  八条ケ池が庭園ということですか?

梅林 そう。日本の平安時代に相当する頃に中国の浙江省杭州市(せっこうしょうこうしゅうし)にある西湖(せいこ)に堤防上の道を作り、間に切れ目を作って太鼓橋を掛けた庭が造られたのですが、そのデザインが江戸時代の日本で大流行したんです。

―  どんな所で造られたんですか?

梅林 例えば東京の芝離宮、小石川後楽園なんかもそうですね。記号として中国の美しい景色をコピーしたんです。

― どれも大名庭園ですね。ということは八条ヶ池も西湖をコピーしたと。

梅林 かなり典型的な例ですね。これは江戸時代中期に出された『都名所図会』ですが、この時代、すでに八条ヶ池の真ん中に堤防状の路がある。しかも人々が船遊びをしています。柵で囲われていなくて自由に出入りできたということですね。ですから八条ヶ池は単なる溜池ではなくて庭園、公園として造られたといえますね。

― あ、堤防を渡っている人が扇子を振っていますね。

梅林 これ、江戸時代の表現で感動している表現なんですよ。この辺には、ほら! 

―  茶店ですか?

梅林 そう。この頃はまだ仮設ですね。おそらくこういった茶店が常設化して、錦水亭のような形になっていったんでしょうね。

― 今風に言うと池でボート遊びをして、まわりにカフェがある感じでしょうか。

★プチ情報★ 今、梅林さんと立っている所にある「古今伝授の間ゆかりの地」の石碑ですが細川幽斎(藤孝)が八条宮家の智仁親王に『古今和歌集』の解釈の奥義を伝授した建物があった場所。現在は熊本市の水前寺成趣園(すいぜんじじょうじゅえん)に移築されています。

梅林 今、一般的に日本最古の公園といわれているのが1801年に福島県で造られたため池兼庭園の「南湖公園」です。ただ、八条ヶ池が造られたのが1638年ですから、こちらが日本最古の公園ではないかと思うのですが、なんで注目されないんだろう。もっと注目したら面白いですよ。

―  しかし、江戸初期に日本に公園という概念があったとは驚きです。

梅林 ヨーロッパよりも古いですよね。

―  そうなんですか!

梅林 庭園を作って身分の低い人にも開放するというアイディア自体がヨーロッパの王侯貴族にないですからね。それが日本の江戸時代前期にあったとは結構、衝撃的ですね。


東山の八坂神社、西山の長岡天満宮!

梅林 今から断層を越えます。

― 粘土層はみえるのかな。

梅林 約10メートル上がっていますね。マグニチュード7、8クラスの地震1回で1~2メートルぐらいズレるので単純計算で5~10回分ですね。

― その都度、隆起して高くなっていったわけですね。

梅林 断層崖の上からが恐らく神社としての聖域になるんでしょうね。創建当時、ここが断層崖の上ということは分からなかったと思いますが、何か違うってことを感じたってことですよね。

― 確かに急に山が現れますし、気分的に空気感が違いますね。

梅林 そう。この感じ、分かりやすく言い換えると「天然の神棚」ですよね。長岡天満宮は市民にとって初詣やツツジを観にいくような地域のランドマークですよね。そのランドマークがここにある理由を地面の形から見ていくわけです。

― なるほど~。確かに生活の中に溶け込んでいる景色なんだけれど、なんだか違うんですよね。

梅林 そうそう。そんな感じ。しかも説明されずとも身体で感じられる。地形的な境界線と人間の文化的な境界線が一致する面白さですね。いつも見ている景色だけれど「なんかここからちゃうね」「見上げちゃうね」とか。

昔は恐らく、それを神や仏の力だと思っていたでしょうね。そういう体感型の場所が京都の場合、断層崖に多くあって神社やお寺になっている。これは典型的な形ですね。東山の八坂神社、西山の長岡天神。そういう吊り合いでもいいと思いますよ。


明治の時代に神社建築のマニュアルがあった?!

梅林 長岡天満宮で面白いのが本殿ですね。これは昭和16(1941)年に平安神宮の本殿を貰ったんですよ。ちなみに手前の朱塗りの建物は拝殿です。どんな本殿かというと(裏へ回ってみる)ほら、結構大きいんですよ。

― ほんとだ!思っていたより大きい。そして拝殿とスタイルが全く違いますね。

梅林 そう。長岡天神の本殿の興味深いところは近代国家のマニュアル通りに作っていることなんです。

― マニュアル?!

梅林 「神社建築制限図」といって明治政府が神社建築の様式や規模を定めたマニュアルがあるんです。

例えば明治神宮や平安神宮もそうですが、新しく神社を作る際、作りやすいようにマニュアルを作って配布したんです。ですから明治時代以降にできた神社は結構、この通りに作られています。

これは典型的な三間社流造(さんげんじゃながれづくり)ですね。規格も大中小とあり、これは中です。

※三間社流造・・・正面の柱が4本、柱間の間口が3間で、屋根が反りながら前に曲線形に長く伸びて向拝となったもの。

― この大きさで中ですか!

梅林 こちらから見るとわかるのですが江戸時代の神社建物と圧倒的に違うのは動物や植物などの装飾が一切無く、白木ということ。ある種、近代の合理的なデザインといえるでしょうか。

―  すると、どんな素晴らしい棟梁が作ってもこのマニュアル通りになると。

梅林 そうです。この設計は伊東忠太という建築家が手掛けたんですが、

―  え! 西本願寺の伝道院や東山の祇園閣や東京の築地本願寺(浄土真宗本願寺派 築地本願寺)などを手掛けた?(写真提供:浄土真宗本願寺派 築地本願寺)

梅林 そうそう。

―  妖怪などの装飾が付いた、ディコラティブな建築の印象がありますよね。

梅林 うん。だから伊東忠太が役人として作った建物かなあ。つまり、明治の国家神道に相応しい自立したスタイルを作ろうと伊東忠太たちに作らせたのが、この制限図です。その最も素晴らしいサンプルが長岡天神にあるんですよ。

長岡天満宮に来るだけで
長岡京の太古から近代、現代まで分かる!

梅林 ですから、長岡天満宮に来るだけで古代の断層や地震活動に思いを馳せて風景の成り立ちを考え、近世に中国の湖を模した八条ヶ池が造られ人々が集う公園を眺め、さらに近代国家の枠組みの中で新しいスタイルで造られた社殿が長岡天神の本殿になっている。

ここに来るだけで古代、中世、近世、近代、現代の特徴を追える面白さがありますね。

―  今日、色々、お話を聞いて一気に土地に対するイメージが変わりました。帰り道が行きとは全く違う景色に見えてきました。初詣の時に家族や友人に教えちゃいます!

梅林 僕のモットーは通勤、通学、犬の散歩が見違える、輝くです。生活の一部になっている景色が輝くのが僕は一番、ステキだなと思っているんです。そうすると日々の生活もまあええかな、と思えてくるでしょ。



梅林秀行さん

1973年愛知県名古屋市生まれ。京都高低差崖会崖長。NHKのテレビ番組「ブラタモリ」御土居編、奈良編、嵐山編、伏見編、祇園編、2018年4月銀閣寺編、東山編に出演。趣味は高低差探し、看板ウォッチャー、銭湯、商店街巡回。「まちが居場所に」をモットーに、まちの日常と物語から生まれたメッセージを大切にしている。


写真撮影:l'atelier kicca 菊地佳那



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