SENSENAGAOKAKYOの大人の社会科見学シリーズ、前編では長岡京工場の見どころをお送りしました。中編では「調合師」のお仕事に密着。
キャプション)右がベテラン調合師の畑さん(常務)、左が若手調合師の藤本さん
平成から令和へ、時代の移ろいを「香り」で表現。壮大なテーマに挑んだ松栄堂の調合師お二人にお話をおうかがいしました。
松栄堂の香りを守る「調合師」のお仕事とは?
海外へお香の原料を買い付けに
キャプション)直営店のみで扱う改元記念限定商品「L'espoir はじまりの香」。レスポワールとは、フランス語で「希望」という意味
―畑さん、藤本さん本日はどうぞよろしくお願いいたします。最初に「調合師」とはどんなお仕事なのでしょうか?
畑 松栄堂の香りを守り、お香の原料を組み合わせて新しい香りを生み出す専門職です。
―買い付けのために海外へ行かれるとか?
藤本 はい、私が行っています。お香は日本の伝統文化として1000年以上もの歴史がありますが、実はお香の原料は昔からずっと輸入しているんですよ。日本では採れません。
漢薬香料は中国や東南アジア、アフリカなどを中心に、エッセンシャルオイルは世界中から取り寄せています。
キャプション)お香の原料となる天然香料は数十種類。なかにはスパイスや漢方薬も
―そうなんですか!?知りませんでした。
藤本 料理人が食材探しに産地へ出向くように、調合師も現地へ赴きます。そして現地で原材料の品質をしっかりと確認してから仕入れていますね。松栄堂の香りを守るための大事な仕事の一つです。
キャプション)長岡天満宮内に細川藤孝(幽斉)ゆかりの「古今伝授の間」があった。石碑が残る。2020年大河ドラマ『麒麟がくる』でも注目されそう
―調合のレシピは秘伝とききましたが、長岡京市でかつて戦国武将・細川藤孝によっておこなわれた和歌の奥儀伝承「古今伝授」に通じるものを感じます~。
畑 まさしくその世界ですね。(笑)
キャプション)代表的な香木は沈香(ぢんこう)・伽羅(きゃら)・白檀(びゃくだん)の3種類。写真は沈香
―レシピの内容を知っているのは調合師のお二人だけということですか?
藤本 はい、もちろん。代々受け継いてきた調合帳という秘伝のレシピがあって、昔は筆で手書きしていましたが、今はコンピューターで厳重に管理しています。
新商品を開発するときは画面に向かってレシピを考え、試作、レシピ修正の作業を繰り返します。
キャプション)調合師の藤本悌志さんは長岡京在住。子どもと天王山まで自転車で出かけるのが休日のお楽しみ
改元を香りに託して、開発秘話を語る
―新商品の開発といえば、昨年2019年、改元にふさわしい壮大なテーマの香りづくりに挑まれたそうですが。
藤本 はい、「L'espoir はじまりの香」という商品を開発しました。平成と令和2つの時代をテーマに未来への希望を込めて、それぞれの香りづくりにチャレンジしました。
キャプション)手前、水浅葱(みずあさぎ)が平成の香り、奥の薄紅(うすべに)が令和の香り
―ベテランの畑さんが平成を、若手の藤本さんが令和を担当されたということですね。どんなことを考えたり、イメージしたりして開発されました?
藤本 新たな時代ということで新しい素材を使って、これまで考えもつかなかった組み合わせをつくってみようと意気込んでいましたね。
新しい時代がどういう時代になってほしいか、どんな気持ちで次の時代に足を踏み入れるか、そういったことを色々と考えながら。
希望をもって前向きな一歩を踏み出すイメージで、軽やかで明るい香りに仕上げました。
キャプション)松栄堂の常務でもある調合師の畑利和さん
―畑さんはいかがでしょうか?
畑 昭和から平成へと新たなチャレンジを続けてきた松栄堂の香りづくりの歩みを止めることなく、次の時代に繋げていきたいという思いでつくりました。
― 苦労されたことはどんなことですか?
藤本 「L'espoir はじまりの香」には1本だけ、特別な製法で職人が手作りしたお香が入っています。焚きはじめは「平成」の香りで、やがて「令和」の香りへと切り替わります。
畑 切り替わるところの香りが難しいなぁ…と。スムーズに香りのバトンが渡せるか心配でした。
藤本 それが奇跡的にもうまくつながったんです!松栄堂の伝統の香りがベースにあるからですね。畑さんの香りが意外とモダンで攻めた感じだったので少し焦りました。(笑)
―さすが一子相伝、師匠と弟子ですね!
キャプション)レスポワールシリーズは全部で3種類。スティックタイプのほか、円錐タイプもある。京都本店および直営店で販売中
―開発中はこの香りでいきたい!という試作品が出来上がるまでお互いに相談しなかったそうですが?
藤本 はい。でもそれは普段も同じなんです。
キャプション)試作品の香りのテストをする藤本さん
―どうしてですか?
畑 彼と私は親子ほど年が離れていますが、調合師はライバルなんですよ。調合師それぞれの個性や感性を尊重することが松栄堂の成長にもつながる、そう信じています。
とはいえ、香りが出来上がった時点でイメージと違うものはもちろんダメと言います。(笑)妥協はできません。
藤本 逆に説得する場合もありますけどね。絶対これでいきたい!と。(笑)
キャプション)試作品は線香10本分という小さい量でつくるため、液体計量機は10000分の1の位まで計れるものを使う
―職人魂を感じます!途中、不安になったりしませんか?結構プレッシャーありますよね。
藤本 自分の中の香りのイメージと実際の香りが一致するまでに、試作を繰り返します。多い時は50回、100回と…。バランスのとれた香りをつくり込むのに時間はかかりますね。
キャプション)粉末にした天然香料は100分の1グラム単位で計量。大きな機械でつくる際、誤差が生じないように精密さが求められる
―バランスのとれた香りというのは?
藤本 足してもだめ、引いてもだめというような「角のない丸い香り」のことです。それができたときが嬉しくて、一番テンションの上がる瞬間ですね。
畑 調合師は香りをつくる技術を習得するのに大変時間がかかるんです。長年のノウハウが蓄積され、だんだんと、配合をみただけで香りがイメージできるようになります。
キャプション)長岡京の香り。新シリーズとして、明智光秀の娘・細川ガラシャの居城・勝龍寺城のお香立も登場 ※非売品
―こちらは以前長岡京市の記念品として畑さんに作っていただいた「長岡京の香り」です。前市長が公務で表敬訪問したときの手土産にもしていたとききました。
畑 「長岡京の竹林を駆け抜ける風」を香りでイメージしました。長岡京はたけのこの町ですから、美しい竹林がありますね。
香りをイメージするため、改めて長岡京の町を歩きました。町の空気を感じて表現しないと説得力が出ないと思っています。
長岡京は乙訓寺や長岡天満宮など歴史ゆかしい場所もあるし、自然も豊かでいい町ですね。
キャプション)4月下旬ごろ、キリシマツツジが満開となる長岡天満宮
キャプション)研究室では手作りで試作品1回につき10本分のお線香をつくる
―テーマを香りでイメージすることって難しそうですね。
藤本 はい。調合師の仕事で結局一番難しいところですね。例えば、甘い香りといっても人によってイメージする香りが全然違いますから。それは調合師同士でも同じです。同じ依頼がきても感じ方が違う。
ですから企画の背景や意図などを丁寧にヒアリングして、分析しないといけません。お客様から商品開発の依頼が来た時にニーズをいかに的確につかむか。そこを聞き出すテクニックは一番大事なポイントで、やりがいを感じます。
―お二人の今後の目標は?
藤本 未来にずっと残っていく人気定番商品を一つでも多く生み出していきたいです。
畑 次の世代がいろんな新しい提案をして進化していく姿を見ることができたら嬉しい。また、好奇心を絶やさず「もうひと花咲かせたい」いつもそう思っています。
―一子相伝でつながってきている調合師の歴史を垣間見たような気がします。ありがとうございました。
最終回の後編では調合師の藤本さんがお香の基礎知識を解説してくれます。さらに話題のスポット松栄堂京都本店(京都市)に隣接する、小さな香りのミュージアム「薫習館」のライターレポもお届け♪
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香老舗 松栄堂 長岡京工場
長岡京市勝竜寺東落辺14−2
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撮影:菊地佳那
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