京都の師走の風物詩、吉例顔見世興行の「まねき看板」。ニュースで目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
力強く書かれた歌舞伎役者の名前は、勘亭流(かんていりゅう)という書体を受け継ぐ書家が1枚1枚手書きしています。その筆を預かる唯一の書家が、5代目の川端耕司(雅号:清波)さん。実は長岡京市を拠点に活動されているんです。
伝統を守りながら多くの人々に魅力を伝える川端さんは、まねき文字と勘亭流の両方を自在に書き分ける、数少ない書家でもあります。今回は川端さんが大切にしている「勘亭流の世界」を深掘りすべく、工房にお邪魔しました。
上方勘亭流、継承者の川端さんが解説!勘亭流ってどんな文字?
勘亭流は大きく分けて江戸と上方の2つ。江戸は数名がその系譜を受け継いでいますが、上方の勘亭流を受け継ぐのは、川端さんを含む2名のみ。歴史と伝統を今に受け継ぐ、貴重な一端を担っています。
「私が受け継ぐ上方の勘亭流は、文字のメリハリが強いんです」と、川端さんが解説をしてくれました。川の字の左側が細く右側が太いのが特徴
顔見世興行のまねき看板に用いられる「まねき文字」は、勘亭流をもとに発展した独自の書体。今回の記事では、その源流である「勘亭流」についてご紹介します。
「勘亭流の歴史は、さかのぼること1779(安永8)年。江戸の歌舞伎小屋『中村座』からの依頼で、書家の岡崎屋勘六(かんろく)が初春の芝居看板を揮毫したのが始まりです」と川端さん。
太く丸い文字は大入満員を象徴するとたちまち評判になり、岡崎屋勘六が雅号を「勘亭」と名乗ったことから勘亭流と名付けられました。240年以上経った今も、歌舞伎と深く結びついた文字として親しまれています。
「勘亭流には、角を丸く墨を黒々と隙間なく書くなどの特徴があります。木編ならこう、水部(さんずい)ならこうと、書き方がきちんと決まっているんです」。頻出する漢字や50音はすべて頭に入っているという川端さん。初めて書く漢字でも、"へん"と"つくり"を頭の中で組み合わせてから筆を進めるのだそう。
美しい文字との出会い。勘亭流の道を歩み始めたきっかけ
川端さんと勘亭流との出会いは、偶然目にしたHPがきっかけ。その文字の美しさに衝撃を受け、「自分でも書きたい」と思ったのが始まりでした。勘亭流書家の川勝茂(雅号:清歩)さんに直談判し、高槻の川勝さんの元へ通い、2007年から本格的に勘亭流の道を歩み始めます。
「先生は多くを語らない方でした。『良い』『悪い』というシンプルな言葉の中から学びを見つけていく日々。先生の人柄と技術、そして勘亭流が好きという純粋な気持ちが、私を前に進ませてくれました。『勘亭流だけで生きていく』そう心に決めてからは、迷いなく突き進んできました」。静かに語る川端さんの表情からは、勘亭流への揺るぎない情熱が伝わってきます。
これまで手がけたオリジナルグッズの数々(一部オンライン販売あり)。詳しくは記事の後半で!
今では勘亭流教室やグッズ販売など活動の幅を広げる川端さん。先生を亡くしたことをきっかけに、勘亭流を後世に残す新たな挑戦を始めました。
勘亭流で「センス長岡京」と実際に文字を書いてもらいました!
一筆目の勢いを殺さないのが難しいところ。「『勢いがあるままに塗り(補筆:ほひつ)を重ねていくこと』を一生かけて追求する」と川端さんは言います
一見すると書道のようですが、勘亭流はまったくといっていいほど別物。鉛筆などで割り付け線を書くことから準備が始まります。「枠に収まるように書くことで、複雑で圧迫感のある文字が整然として見えるんです。筆は寝かして持って、何度も塗り重ねるようにします」と、川端さんは話しながら書き進めていきます。
下書きなく筆一本で生み出される文字は、まるで魔法のよう。一気に書き上げるのではなく、ゆっくりと文字ができ上がっていきます。
いつもそばで川端さんを見守るのは、川勝清歩さんの形見分けで譲り受けた筆置き。長年使い手に馴染んだ筆とともに愛用している
はじめて見る工程に目を奪われていると、みるみるうちに文字が完成と思いきや、川端さんには気になる点がある様子。一度乾くのを待ち、線の太さや丸み、ガタ付きなどをミリ単位で微調整し、やっと書が完成しました。
黒々と迫力がありながらも繊細な美しさを感じるのは、この細かな仕事があってこそ。じっくりと誠心誠意、文字と向き合っています。
長岡京の集中できる環境とまちの歴史が制作の糧に
現在の工房の様子
以前の工房が手狭になり、京都府内で物件を探していた川端さん。そして2024年11月、長岡京市の物件との出会いが訪れます。
「内覧で2階の窓を開けた瞬間、長岡天満宮が目に飛び込んできました。鳥居の向こうに沈む夕日が後光に見えて、自分を迎えてくれていると感じたんです。迷いなく、ここに拠点を構えることを決めました」と、当時を振り返ります。
※写真はイメージです
今でも長岡天満宮は川端さんにとって特別な場所。しばしば足を運び、気分をリフレッシュしています。
「季節ごとに移り変わる景色が魅力ですね。参拝後は散歩をしながら、石碑や提灯などの文字を探してしまいます。文字が好きなので、つい気になって」。
勘亭流の道に進んでもう少しで19年目。今でも日々の稽古と学びを続けています。
「長岡京市は、何より静かなところが良いですね。稽古の時も心を落ち着けて自分自身と向き合うことができています。それでいて京都市内へのアクセスも良く、古書店や古本市で古い資料を探すこともできる。静かな環境と利便性、両方が叶う私にとって絶好の場所です」。
川端さんが古書店で購入した昭和11年の歌舞伎の番付表。先人たちが残した文字から学びを得ている
勘亭流を日本から世界へ、そして次世代につなぐ川端さん
「勘亭流を"昔からある古い文字"で終わらせたくない。今の人に魅力を届けるため、基本を大切にしつつ新しいことに挑戦しています」と語る川端さん。
その一環として、手書きの勘亭流をアート作品に昇華すべく、日々試行錯誤を重ねています。
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ポストカードは全80種類
好きな文字をオーダーできるアイテムも大きな魅力。特別な記念や節目が忘れられないものになる唯一無二のデザインです。
参考例/左:店表札「新駒屋」、右:連名表札「川端耕司・久美」
重厚感あふれる「御誂え表札(33,000円)」※防水・撥水加工は承っておりません
好きな言葉や名前の揮毫(最大5文字まで)「御誂え ことのは板(22,000円)」
さらに長岡京市では、全国で唯一のふるさと納税の返礼品として「御誂え千社札(寄付額74,000円)」を採用。3つのデザインの中から好きなものを選び、希望の文字を入れてセミオーダーすることができます。(50枚1セット、揮毫は1名さまのお名前)ぜひ、この機会にいかがでしょうか?
▶ふるさと納税についてはこちらから!
https://www.satofull.jp/products/detail.php?product_id=1649914
活動の幅を広げる川端さんに、これからの夢を聞きました。
「これまで教室やオーダー制作を通じて、個人の方々に勘亭流の魅力を伝えてきました。今後は企業や自治体、そして海外の方々とも連携しながら、日本固有の勘亭流をより広い形で発信していきたいです」と語る川端さん。
「今やってる活動をもっと多くの人に知ってもらって、デザインや文化表現のひとつとして世界に届けたい。その中で『勘亭流ってこんなに面白いんだ』と感じてもらえたら嬉しいですね」。
これまで積み重ねてきた経験を糧に、新たな挑戦を続ける川端さん。これからの活躍から目が離せません!
\今回お話をおうかがいしたのは、こちらの方/
勘亭流書家・上方勘亭流書道會々主
川端耕司(雅号:清波)さん
2007年より歌舞伎文字・勘亭流を学びはじめ、2023年より吉例顔見世興行のまねき書き5代目を受け継ぐ。長岡京教室にて勘亭流を教えるほか、オリジナルブランド『戯筆(zarefude)』では勘亭流文字をデザインしたグッズを多数制作。勘亭流の魅力を伝えるため、精力的に活動している。
HP/Instagram @gihitusou
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